「地域における教師教育と大学の役割」
主催:日本教師教育学会
協賛:全国私立大学教職課程連絡協議会
◇ 日 時 2002年10月12日(土)14:30~17:00
◇ 会 場 神戸大学発達科学部B202教室
◇ 参加費 無料
司会者
- 碓井岑夫(和歌山大学)
- 古沢常雄(法政大学)
提言者
- 教育系大学・学部の統合問題
臼井嘉一(福島大学長) - 地域の教育から教育学部との連携・統合問題を考える
有田博充(前鳥取県教育長) - 地域教育計画と大学コンソーシアム
高木英明(光華女子大学長)
指定討論者
- 森透(福井大学)
- 吉岡真佐樹(京都府立大学)
テーマ設定の趣旨
ユニバーサル化の時代を迎え、大学は、今、多くの困難な問題を抱えている。何よりもまず、大学生や大学院生の低学力化・学習意欲の著しい喪失・人間関係の希薄化など、実践的課題として放置できない事柄が進行していることを指摘しなければならない。逆に、学生たちが学習意欲に燃えていても、学費が世界的に高い水準にあり、奨学金制度も貧弱であり、勉学に専念することが難しい現実もある。
ところが多くの大学教師たちは、経済財政諮問会議や文部科学省などの昨今の大学改革方針である「世界最高水準の大学作り」の波に翻弄され、疲弊しており、本来の任務である学生の教育に割く時間も気力も持ち合わせていないのが実態ではなかろうか。さらにいえば、戦前以来先人たちが培ってきた大学の自治、学問の自由などの理念が大学教師たちの関心の外に置かれ始めている。
今、「世界最高水準の大学作り」も大切だが、しかし、大学を成立させている足元を見つめることが大事ではないか。地域にとって大学とはどういう存在であるべきかを考える必要があるのではないか。とくに教師教育という仕事は、地域との関係を度外視しては考えられない。
戦後、すべての都道府県に一つの教育系大学・学部が国によって設けられ、都道府県内の義務教育に携わる教師たち、とりわけ初等教育の教師たちを輩出し続けてきた。確かにここ10数年、少子化等の影響から教師の採用が全国的に滞り、それをてこに教育系大学・学部の改革が断続的に行われ、今や都道府県の枠を越えた統廃合が政策的日程に上っている。しかしそれは、教育系大学・学部が教師を養成することだけがその機能とみなされ、それらが担っている他の重要な機能、すなわち、地域の教育問題を検討することや、当該地域の現職教師の種々の研修にあたることや、もっと大きく見て大学教育を受ける機会を地域に積極的に提供することなどを顧みない狭い見地に立つものである。
ことは、国立の教育系大学・学部だけの問題ではない。中等教育の教師たちを主要に輩出してきた私立大学の教職課程も、教師の採用数の全国的停滞の影響や、複雑化する教育問題への対応を理由とする教育職員免許法の相次ぐ改定により、その経営が大きく揺らいでいる。しかも深刻なのは、教職課程だけでなく大学そのものの経営が厳しくなっていることである。この困難な状況を打開するのに必要なことは、「世界最高水準の大学作り」に走ることではなく、どれだけ地域に深く根づくかである。
教育系大学・学部にせよ私立大学の教職課程にせよ、およそ教師教育という仕事は地域を離れては考えることはできない。今、改めて地域から教師教育と大学のあり方を考えることによって、混迷する事態を積極的に切り開きたい。
企画責任:日本教師教育学会第12回大会実行委員会
実行委員長 土屋 基規(神戸大学)