日本教師教育学会の創立に向けて
今日の日本における学校教育の現状をみると、子ども・父母及び地域住民は、学校に対し厳しい批判や注文をするとともに、教職員に対する強い期待をもまた同時に抱いております。しかしながら、現在の文教行政は、このような国民の期待に対して、学問的に根拠のある対応をすることなく、性急な対症療法的な「資質の向上」を要求して、大学における教師教育をいたずらに混乱させています。
これまで、教師の自己教育を含む養成・採用・研修等にわたる教師の力量形成(教師教育)をめぐる問題については、長年にわたって、さまざまな角度から研究が進められてきており、その成果も膨大な量に及んでいます。その研究の進め方にしても、個人の研究によるものもあれば、集団による共同研究のものもありますし、また、教師教育に関する一定の研究連絡組織によるものもあります。
このように国民的規模での関心も強く、また、従来教育学界における研究が質量ともに発展しながら、教育者養成に関し専門的かつ継続的に研究する専門学会が、日本の教育界にいまだ存在していないのは、残念なことといってもよいでしよう。
国立・公立・私立といった学校の設置者別、あるいは、四年制大学か短期大学か、大学か大学以外か、などといった既成の枠を越えた研究活動が強く要請されています。そればかりか、国際化時代の今日、教師教育に関する国際交流も必要であり、環太平洋諸国やヨーロッパにおいては、そのための国際交流組織がすでに存在し、活発な研究交流を展開しています。
このような状況を反映してか、教師教育に関する自主的・自律的な研究団体の必要性や一定の社会的合意を形成していくにふさわしい教師教育に関する総合的な研究を推進していく学会活動の重要性を指摘しつつ、新しい学会の誕生を求める声を、私どもは、数年前から、たびたび耳にして参りました。
そこで、私たちは、こうした現状を打破し、教師教育を対象とする本格的な研究を継続的にすすめる全国的な新しい専門学会の創立を呼びかけるものであります。
私たちのめざしている日本教師教育学会は、「学問の自由を尊重し、子どもの権利の実現に寄与する教師教育に関する研究の発展に資すること」(会則案2条)を目的とするとともに、会員の資格要件を「本学会の目的に賛同し、教師教育に関する研究を行なう者、及び教師教育に関する研究又は実践に関心を有する者」(会則案4条)とし、大学における研究者に限定することなく、広く開かれた学会にしたい、と考えています。
また、私たちは、教師あるいは教職という概念を、たんに学校教育に直接携わっている人々だけに限定して理解すべきではない、と考えております。つまり、社会教育や社会福祉事業に従事する人々をも含めた広い意味での教師、いわば、教育専門家の育成が、大学における教育学教育の課題として、緊密に、一体化して行なわれるべきであり、また、そうでなければ国民の学校教育に対する切実な期待に応えることはできない、と考えるからであります。私たちの目指す教師教育は、このような教育学教育の成果に支えられたものでなくてはなりません。
かくして、教師教育をめぐるさまざまな視野からの総合的な研究は、従来の先行研究の成果を踏まえながら、新しい学会の創立とともに、大きく前進していくこととなるでありましょう。
このような主旨に多くのみなさまのご賛同をいただき、いよいよ90年代がスタートした年を、21世紀にふさわしい新しい教師教育の創造をめざす「日本教師教育学会」の誕生の年にいたしたい、と考えるものであります。
多くのかたがたの積極的なご賛同を、お願い申し上げます。
1991年8月3日
日本教師教育学会創立発起人一同